SUS304とSUS430 選定のポイント
筐体の設計において、材質の選定は製品の品質やコスト、寿命を大きく左右する非常に重要なポイントです。
今回は、板金筐体で特に使用される機会の多い「SUS304」と「SUS430」について、それぞれの特徴から選定方法まで解説します。
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そもそもステンレスとは
ステンレスは、鉄(Fe)を主成分としながら、クロム(Cr)やニッケル(Ni)を添加した合金鋼です。ステンレスとは英語で表記すると「Stainless」であり、この単語は「錆びない」を意味します。
ステンレスは不動態皮膜という非常に薄い膜を持っています。この膜が鋼材を酸素や水から守るため、錆びを発生させることなく使用することができます。またステンレスは、傷がついても、鋼材中のクロムが空気中の酸素と反応して瞬時に再生する自己修復機能も持っています。このようにステンレスは優れた耐食性をもっているため、精密機器の筐体やキッチン、医療機器など、私たちの身の回りで広く使用されています。
SUS304とは

SUS304は、ステンレス鋼の中で最も一般的な材料です。クロムを18%、ニッケルを8%含んでいるため、「18-8ステンレス」とも呼ばれます。
SUS304の特長
耐食性:クロム(18%)とニッケル(8%)をバランス良く含むことで、非常に優れた耐食性を誇ります。屋外や水回り、食品に触れるような環境でも安心して使用できます。
優れた加工性と溶接性:SUS304は、オーステナイト系ステンレスに分類されます。このオーステナイト系の材料は面心立方格子という、非常に安定した原子構造を持っており、原子の層が滑るように変形します。この性質により、曲げや絞りといった複雑な加工でも材料がちぎれることなく変形します。また、溶接性も良好で、組み立ての自由度の高い素材です。
このようにSUS304は、食品加工機械や厨房設備、医療機器、屋外に設置される制御盤など、高い耐食性、加工性、美観性が求められるあらゆる場面に適した素材です。初期コストは後述するSUS430より高くなります。
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【補足】SUS304(2B)
「2B」とは表面仕上げのことであり、冷間圧延後に熱処理、酸洗を行った後、適度な光沢を得るために軽く圧延して仕上げる、最も一般的なステンレスの表面処理方法です。
この仕上げは、外観研磨することで美しい光沢を放ち、製品のデザイン性を高めます。特に「SUS304(2B)」は、製造工程で軽く圧延されて滑らかでやや光沢のある表面に仕上げられており、外装部品としてそのまま使用されることも多い仕上げです。
SUS430とは

SUS430はフェライト系ステンレスに分類されます。耐食性や強度を高めるニッケルが含まれていないため、SUS304と比較すると耐食性が比較的劣りますが加工性も高く、経済的であるため、SUS304の代用品としても広く使用されます。
SUS430の特長
安価:高価なレアメタルであるニッケルを含まないため、SUS304に比べて材料コストを大幅に抑えることができます。
熱伝導性:熱が伝わりやすいため、厨房機器の天板などにも利用されます。
磁性:SUS304は基本的に磁石につきませんが、SUS430は鉄系の材料なので磁石がくっつきます。
注意点と使い方
SUS430は、SUS304と比較すると耐食性では少し劣ります。そのため、常に水に濡れる場所や、錆の発生が致命的な欠陥となるような製品には注意が必要です。
しかし、屋内使用で、直接水がかからないような環境であれば、ほとんどのケースでSUS430の耐食性でも十分です。例えば、家電製品(洗濯機の槽や冷蔵庫の内箱など)の内部部品や、オフィス機器のフレームなど、コストを重視しつつも一定の耐久性を確保したい用途に最適です。
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【補足】「SUS430-KD(タンデム材)」
さらにコストを追求したい場合におすすめなのがSUS430-KDです。これは、SUS430の表面を滑らかにする仕上げ工程を一部簡略化した材料で、その分価格が安価です。耐食性などの機能的な性質はSUS430と同等なので、塗装やメッキを施す前提の部品や、人目に触れない内部の構造部品など、表面の美観を問わない箇所に使うことで、コストダウンを図ることが可能です。
▼SUS430KDによるコストダウン事例の詳細はこちら▼
SUS430からSUS430 KDに変更し、コストダウンを実現|VA・VE事例
SUS304とSUS430の選定における4つのチェックポイント

①使用環境
まず最も重要なのが、製品がどのような環境に置かれるかです。
屋外や沿岸部、常に水に濡れる厨房や浴室、あるいは薬品に触れる可能性があるような過酷な環境では、耐食性に優れるSUS304が適しています。一方、一般的なオフィスや家庭の屋内など、結露の心配が少ない環境であれば、SUS430でも十分です。このように使用環境によって、要件が異なるため、どこで使うのかを十分に考慮する必要があります。
②形状(加工・溶接)
次に、製品の形状や構造の複雑さを考えましょう。
シンクのような深い絞り加工や、複雑な曲げ加工が求められるデザイン、そして強度を確保するための溶接が必須な場合は、加工性・溶接性ともに安定しているSUS304が適しています。逆に、単純な曲げ加工が中心で、溶接箇所が少ない、または溶接が不要な設計であれば、SUS430でも問題なく対応することが可能です。
③外観品質
製品のデザイン性や、部品が人目に触れるかどうかも重要な判断基準です。
製品の外装部品として、高級感やクリーンな印象が求められるのであれば、落ち着いた光沢を持つSUS304(2B)や、さらに美しい研磨仕上げを施したものが最適です。一方で、装置の内部フレームなど、普段は見えない部品や、最終的に塗装で仕上げる前提の部品であれば、見た目の仕上げを簡略化したSUS430やSUS430-KDを選び、コストを優先するのが適切です。
⓸予算・経済性
初期コストが多少高くても、長期的な耐久性や製品としての信頼性を最優先するならば、SUS304がベストな選択です。しかし、製品全体のコストを少しでも抑えることが重要な場合は、SUS430やSUS430-KDを選択するのが適切です。
▼SUSからの素材変更によるコストダウン事例はこちら▼
SUS304からSUS443へ材料変更によるコストダウン提案|VA・VE事例
SUS304から二相鋼板へのコストダウン提案|VA・VE事例
まとめ
SUS304とSUS430の選定は、それぞれの特性を理解した上で行うことが必要です。
使用環境・形状・外観・予算の4つのポイントから総合的に判断し、適切に選択しましょう。当社では材料変更や塗装レス化によるコストダウンのご提案を行っております。
筐体に関して
「コストダウンを考えているが、いい方法はないか?」
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このようなご要望をお持ちでしたら、まずは当社にご相談ください。