板金筐体の設計ガイド①:必要な基礎知識について

板金筐体とは、金属の板を切断、折り曲げ、溶接などの加工を施して製作した箱状の構造物のことです。電気機器や精密機械、産業機器など、様々な分野で幅広く利用されています。

本記事から6記事続けて、板金筐体の設計に必要な知識について解説します。

板金筐体について

板金筐体は、他の素材の筐体と比較して、以下の様な利点があります。

  • 軽量で高強度
    金属板を加工して作るため、軽量でありながら高い強度を確保できます。
  • 設計自由度が高い
    複雑な形状や様々なサイズに対応でき、設計の自由度が高いです。
  • 量産性
    金型などを用いることで、大量生産にも対応可能です。
  • 電磁波シールド性
    電子機器などを収納する筐体として使用する場合、外部からの電磁波を遮断する効果が期待できます。
  • 放熱性
    金属材料は熱伝導率が高いため、筐体内部の熱を効率的に放熱することができます。

板金筐体の設計では、これらの利点を活かしながら、用途や要求仕様に最適な設計を行うことが重要です。

板金筐体の設計に必要な知識の種類

板金筐体を設計する際には、以下の様な基礎知識が必要となります。

  1. 材料の知識
    板金に用いられる金属材料には、鉄鋼材(SPCC、SPHC、SECCなど)、ステンレス鋼材(SUS304など)、アルミニウム合金材(A5052、A1100など)など、様々な種類があります。それぞれの材料は、機械的特性(強度、硬さ、延性など)、耐食性、加工性、コストなどが異なります。筐体の用途や要求仕様、予算などを考慮して、最適な材料を選定する必要があります。
  2. 加工の知識
    板金筐体の製作には、レーザー加工機、タレパン加工機、ベンディングマシン(ベンダー)、溶接機など、様々な加工機械が用いられます。それぞれの加工機械には、加工可能な板厚や形状、精度などに制限があります。設計の際には、これらの加工機械の特性を理解し、製作可能な設計を行う必要があります。
  3. 表面処理の知識
    板金筐体には、耐食性向上、外観向上、機能性付与などを目的として、様々な表面処理が施されます。代表的な表面処理としては、塗装(粉体塗装、溶剤塗装など)、メッキ(亜鉛メッキ、ニッケルメッキなど)、アルマイト処理などがあります。表面処理を選択する際には、材料との相性、要求される性能、コスト、納期などを考慮する必要があります。
  4. 組立の知識
    板金筐体は複数の部品を組み合わせて製作されることが一般的です。設計の際には、組立やすさを考慮し、部品点数削減、位置決め、作業スペース確保、接合方法などを意識する必要があります。
  5. JIS規格の知識
    板金筐体の設計には、JIS規格で定められた製図ルールや寸法公差、幾何公差などを遵守する必要があります。JIS規格に従った設計を行うことで、製作時の誤解や手戻りを防ぎ、高品質な筐体を効率的に製作することができます。

設計時の注意点

板金筐体を設計する際には、以下の様な点に注意する必要があります。

  • 最小曲げ半径
    板金を折り曲げる際に、材料の板厚や材質によって、曲げられる最小の半径が決まっています。これを下回る曲げ半径を設計してしまうと、曲げ部に割れやシワが発生する可能性があります。設計の際には、材料の特性に応じた最小曲げ半径を考慮する必要があります。
  • 曲げ加工による変形
    板金を曲げると、スプリングバックと呼ばれる現象により、設計寸法よりも曲げ角度が小さくなってしまいます。このスプリングバック量は、材料の材質や板厚、曲げ半径などによって変化します。高精度な曲げ加工を行うためには、スプリングバック量を予測し、予め曲げ角度に補正を加えておく必要があります。
  • 溶接時の変形
    溶接は、金属を溶かして接合する加工であるため、溶接部に局所的な加熱と冷却が発生し、これが原因で溶接変形が発生します。溶接変形は、筐体の寸法精度や外観品質に悪影響を及ぼす可能性があります。溶接変形を抑制するためには、溶接方法の選定、溶接順序の検討、溶接ジグの使用など、様々な対策を講じる必要があります。加工会社に依頼する場合でも、溶接個所が多数存在する場合は、設計段階から溶接位置等について相談しておくことが重要です。
  • コスト
    板金筐体の価格は、使用材料、加工内容、表面処理、組立工数などによって大きく異なります。コストを抑えるためには、部品点数削減、標準部品の活用、加工の工夫など、様々な視点からコストダウンを検討する必要があります。

まとめ

板金筐体設計は、材料の選定から加工、表面処理、組立まで、考慮すべき要素が多く、奥が深いものです。高品質な板金筐体を設計するためには、これらの基礎知識を習得し、注意点に留意することが重要です。