板金筐体の設計ガイド④:溶接と接合について
本記事は6記事続けた、板金筐体の設計に必要な特集記事です。ぜひ他の記事もご覧ください。
- 板金筐体の設計ガイド①:必要な基礎知識について
- 板金筐体の設計ガイド②:材料選定について
- 板金筐体の設計ガイド③:曲げ加工について
- 板金筐体の設計ガイド④:溶接と接合について(本記事)
- 板金筐体の設計ガイド⑤:筐体の塗装・表面処理について
- 板金筐体の設計ガイド⑥:筐体の組立について
強度と仕上がりのバランスを考慮する
溶接は、複数の金属部品を溶融させて一体化させる接合技術であり、板金筐体の製造において強度と耐久性を確保するために不可欠な工程です。しかし、溶接は熱による歪みや変形が生じやすく、仕上がりの美観を損なう可能性も孕んでいます。そのため、強度と仕上がりのバランスを追求することが、高品質な板金筐体を実現する上で重要となります。
本ページでは、板金筐体における溶接の種類、それぞれの特徴、そしてカシメやリベット接合といった代替技術についても解説し、溶接工程における最適な選択について考察していきます。
板金筐体向けの溶接の種類と特徴
板金筐体の溶接には、主にアーク溶接、レーザー溶接、スポット溶接などが用いられます。
- アーク溶接
電極と母材の間にアーク放電を発生させ、発生する熱を利用して金属を溶融させる溶接方法です。比較的低コストで設備導入が可能であり、様々な板厚に対応できる汎用性の高さが特徴です。 - レーザー溶接
集光されたレーザービームの熱エネルギーを利用して金属を溶融させる溶接方法です。アーク溶接に比べて溶接速度が速く、高精度な溶接が可能である一方、設備導入コストが高額になる傾向があります。 - スポット溶接
電極を用いてピンポイントに大電流を流し、金属を加熱・溶融させる溶接方法です。溶接時間が短く、熱による歪みが少ないというメリットがあり、板金筐体の組み立て工程に広く採用されています。
溶接における強度と仕上がりの課題
溶接は強固な接合を実現できる一方、以下の様な課題も存在します。
- 熱による歪みと変形
溶接は金属を溶融させるため、局所的な加熱が発生し、冷却時に収縮することで歪みや変形が生じやすくなります。 特に、薄い板金や複雑な形状の筐体では、歪みや変形が顕著になり、寸法精度や外観品質に悪影響を及ぼす可能性があります。 - 溶接部の外観不良
溶接ビードと呼ばれる溶接金属の盛り上がりや、スパッタと呼ばれる溶融金属の飛散、溶接焼けなど、溶接工程では様々な外観不良が発生する可能性があります。 これらの外観不良は、板金筐体の美観を損なうだけでなく、耐食性の低下や塗装不良の原因となることもあります。
カシメ、リベット接合
溶接の課題を克服するために、カシメやリベット接合といった代替技術が用いられることがあります。
- カシメ
カシメは、金属製のピンを打ち込むことで、複数の板金を接合する方法です。溶接に比べて熱による歪みが少なく、比較的シンプルな設備で加工できるため、コストを抑えられるというメリットがあります。 - リベット接合
リベット接合は、リベットと呼ばれる金属製の鋲を用いて、複数の板金を接合する方法です。航空機や橋梁など、高い強度と耐久性が求められる構造物に広く利用されています。
強度と仕上がりのバランスを考慮した最適な接合方法の選択
板金筐体の接合方法を決定する際には、強度と仕上がりのバランス、コスト、納期、加工性などを総合的に判断する必要があります。
- 強度と耐久性
構造的に重要な箇所や高い強度が求められる場合は、溶接が適しています。 一方、強度が求められない箇所では、カシメやリベット接合などの代替技術を検討することで、コスト削減や熱歪み抑制の効果が期待できます。 - 外観品質
意匠性が重視される筐体や、外観不良が許容されない製品では、レーザー溶接やスポット溶接などの高品質な溶接方法を選択するか、溶接後の研磨や仕上げ処理を施す必要があります。 また、カシメやリベット接合は溶接に比べて外観がスッキリとしているため、意匠性を重視する場合に有効な選択肢となります。 - コスト
アーク溶接は比較的低コストで加工できますが、レーザー溶接は高額な設備が必要となります。結果、高品質ですがコストが高くなる傾向にあります。対してカシメやリベット接合は、溶接に比べて設備費用が安く、加工時間短縮によるコスト削減効果も期待できます。 - 納期
溶接は加工に時間がかかる場合があり、特に大ロット生産では納期が課題となることがあります。カシメやリベット接合は、溶接に比べて加工時間が短く、納期短縮に貢献します。 - 加工性
溶接は複雑な形状の筐体にも対応できますが、カシメやリベット接合は接合可能な形状に制限があります。詳しくは板金筐体の加工会社に相談することがいいでしょう。
まとめ
板金筐体の製造において、溶接は強度と耐久性を確保するために重要な工程ですが、熱による歪みや外観不良といった課題も存在します。最適な接合方法を選択するためには、強度、仕上がり、コスト、納期、加工性などの要素を総合的に判断する必要があります。
近年では、溶接技術の進化により、熱歪みを抑制した高品質な溶接が可能になりつつありますが、カシメやリベット接合も依然として重要な接合技術として、板金筐体の設計自由度向上に貢献しています。
次は筐体の塗装・表面処理についてお伝えします
板金筐体の設計ガイド⑤:筐体の塗装・表面処理について
https://housing-case-factory.com/technical/591/