アルミ筐体の基礎知識 ①

1. アルミ筐体とその重要性

アルミ筐体は、現代のテクノロジーを支える、目立たないながらも重要な役割を担っています。アルミニウム合金製の箱型構造物であるアルミ筐体は、電子機器、医療機器、産業機器など、実に多様な製品の外装として利用されています。その重要性は、製品の性能、信頼性、そしてデザイン性にも影響を与えることから、近年ますます高まっています。

この記事では、アルミ筐体の基礎知識について、前半と後半に分けて解説します。前半では、アルミ筐体の特徴とメリット、そして種類について、より詳細に掘り下げていきます。

2. アルミ筐体:素材の特性がもたらすメリット

アルミ筐体の最大の魅力は、アルミニウム合金そのものが持つ優れた特性にあります。金属素材の中かでも筐体材料としてよく選ばれる理由は、以下の点に集約されます。

  • 軽量性
    アルミニウムは、鉄の約1/3という軽さを誇ります。この軽量性は、製品全体の重量軽減に大きく貢献し、持ち運びや設置を容易にするだけでなく、輸送コストの削減や、可搬型機器におけるバッテリー寿命の延長など、様々なメリットをもたらします。
  • 強度
    アルミニウム合金は、純アルミニウムよりも強度が高く、筐体材料として求められる強度を十分に満たしています。特に、マグネシウムや銅などを添加した合金は、さらに高い強度を持つため、構造部材としても使用されています。
  • 耐腐食性
    アルミニウムの表面には、空気中の酸素と反応して薄い酸化皮膜が形成されます。この酸化皮膜は非常に安定しており、アルミニウムの表面を保護することで、腐食の発生を抑制します。そのため、アルミ筐体は、屋外環境や湿度の高い環境でも使用することができます。
  • 加工性
    アルミニウムは、切削加工、曲げ加工、溶接加工などが比較的容易な素材です。これは、アルミニウムの融点が低く、塑性変形しやすいという性質によるものです。この優れた加工性により、複雑な形状の筐体でも、高い精度で製作することができます。
  • 放熱性
    アルミニウムは、熱伝導率の高い金属です。このため、アルミ筐体は、筐体内部の熱を効率的に外部へ放熱することができます。電子機器など、発熱を伴う機器においては、放熱対策は非常に重要であり、アルミ筐体は、その解決策として有効な手段となります。
  • 電磁波シールド性
    アルミニウムは電気をよく通すため、電磁波を遮蔽する効果があります。電子機器から発生する電磁波は、他の電子機器の動作に悪影響を及ぼす可能性があります。アルミ筐体は、この電磁波を遮蔽することで、電子機器の誤動作を防ぎ、安定した動作を保証します。

3. アルミ筐体が選ばれる理由:製品にもたらす筐体としてのメリット

前述したアルミ筐体の優れた特徴は、製品そのものにも様々なメリットをもたらします。

  • 軽量化
    製品全体の重量を軽減できることは、製品の可搬性、輸送効率、そして使用時のエネルギー効率などに大きく貢献します。例えば、自動車や航空機などの輸送機器においては、軽量化は燃費向上に直結し、環境負荷低減にも繋がるため、特に重要な要素となっています。
  • 小型化
    アルミ合金の高い強度は、筐体の薄肉化を可能にします。薄肉化によって筐体自体を小型化できるだけでなく、内部の部品配置の自由度を高めることもできます。これは、電子機器の小型化、高性能化が求められる現代において、大きなアドバンテージとなります。
  • デザイン性
    アルミニウムは、表面処理のバリエーションが豊富な素材です。アルマイト処理、塗装、印刷など、様々な方法で表面を加工することで、高級感、機能性、そしてデザイン性を高めることができます。これにより、製品のブランドイメージ向上にも繋がるため、デザインは製品開発における重要な要素となっています。
  • 信頼性
    アルミ筐体は、耐久性、耐腐食性に優れており、長期にわたって安定した性能を維持することができます。これは、医療機器や産業機器など、高い信頼性が求められる機器において、非常に重要な要素となります。
  • 環境性能
    アルミニウムは、リサイクル性に優れた素材です。使用済みアルミ筐体は産業廃棄物業者等を通じて回収が可能であり、再びアルミニウムとして再利用されます。これは、資源の有効活用、環境負荷の低減に大きく貢献します。

4. アルミ筐体の多様な世界:用途と形状、そして製法による分類

アルミ筐体は、その用途や形状、製造方法などによって、様々な種類に分類されます。ここでは、代表的な分類方法とその特徴について詳しく見ていきましょう。

4.1 用途による分類:あらゆる産業ニーズに対応する柔軟性

電子機器筐体

パソコン、スマートフォン、タブレット端末など、私たちの身の回りにある多くの電子機器にアルミ筐体が使用されています。電子機器筐体には、軽量化、放熱性、電磁波シールド性などが求められます。小型化、軽量化が進むモバイル機器において、アルミ筐体は、その性能を最大限に引き出すための重要な役割を担っています。

医療機器筐体

医療機器は、人の命に関わる重要な機器であるため、高い信頼性と安全性が求められます。アルミ筐体は、その軽量性、耐久性、そして耐薬品性から、医療機器の外装としても広く採用されています。医療機器筐体には、高精度な加工技術による高い寸法精度、表面の平滑性、そして洗浄性などが要求されます。

産業機器筐体

工場などで使用される産業用ロボットや工作機械など、過酷な環境で使用される機器の外装にも、アルミ筐体が採用されています。産業機器筐体には、高い強度、耐衝撃性、防塵性、防水性などが求められます。また、薬品や油脂に耐性を持つ素材や表面処理が選択されることもあります。

4.2 形状による分類:設計の自由度と機能美の両立

ボックス型

アルミ筐体で最も一般的な形状が、六面体の箱型であるボックス型です。シンプルながらも汎用性が高く、様々な製品に適用できます。内部空間を広く取ることができるため、電子機器の基板や配線、あるいは医療機器の精密部品などを収納するのに適しています。

パネル型

平面的な形状のパネル型は、他の部品と組み合わせて使用されることが多いです。例えば、ボックス型の筐体の側面パネルとして使用されたり、複数のパネルを組み合わせることで、より複雑な形状の筐体を構成することもできます。軽量化と強度を両立させるために、リブ構造が採用されることもあります。

カバー型

機器の一部を覆うためのカバー型は、複雑な形状をしている場合もあります。例えば、電子機器の放熱フィンや、医療機器の操作パネルなど、機能に合わせて形状が設計されます。カバー型は、内部の部品を保護するだけでなく、製品のデザイン性を高める役割も担っています。

フレーム型: 骨組みとなる形状のフレーム型は、パネルやカバーなどを組み合わせることで筐体として使用されます。軽量化と強度を両立させるために、断面形状を工夫したり、リブ構造を設けたりするなど、様々な設計上の工夫が凝らされています。

4.3 製法による分類:コストと品質のバランスを追求

板金加工

板金加工は、アルミ板を切断、曲げ、溶接などの加工を施して製作する方法です。比較的安価に製作できること、短納期で対応できること、そして設計変更に柔軟に対応できることがメリットとして挙げられます。板金加工は、ボックス型、パネル型、カバー型など、様々な形状のアルミ筐体の製造に適しています。

ダイカスト

ダイカストは、溶かしたアルミニウム合金を金型に流し込んで成形する方法です。複雑な形状の筐体を高精度に製作できること、寸法精度が良く、表面が滑らかになること、そして大量生産に適していることがメリットとして挙げられます。ダイカストにより筐体全体を製作するケースはあまりありませんが、複雑な形状の筐体部品・フレームや、高い強度が求められる筐体の製造に適しています。

押出成形

押出成形は、アルミニウム合金を加熱し、金型から押し出して成形する方法です。断面形状が複雑な筐体を製作できること、寸法精度が良く、表面が滑らかになること、そして材料のロスが少ないことがメリットとして挙げられます。アルミフレーム自体も規格化された商品が多数販売されており、ミスミやSUSといったメーカー品を購入可能です。
ただし、このような既製メーカー品のアルミフレームを用いると設計工数自体は下がりますが、コスト高となるケースが多く慎重な検討が重要です。

後半に続く:アルミ筐体の基礎知識 ②