アルミ筐体の基礎知識②

アルミ筐体の基礎知識①の続きとなります。

5. アルミ筐体の設計:機能とデザインのバランス

アルミ筐体の設計は、単に箱を作るという作業ではありません。製品の機能、性能、そしてデザインを深く理解し、それらを最大限に引き出すための創造的なプロセスと言えるでしょう。ここでは、アルミ筐体の設計において特に重要なポイントをいくつか紹介します。

5.1 強度設計安全性と軽量化の両立

アルミ筐体は、製品を外部からの衝撃や振動から保護する役割を担っています。そのため、製品の用途や使用環境に応じて、筐体に求められる強度が異なります。強度不足は製品の破損に繋がりかねない一方で、必要以上に強度を高めると、筐体が重くなり、製品全体の重量増加に繋がる可能性があります。

そこで重要となるのが、**有限要素法(FEM)**などの解析技術を用いた強度設計です。FEM解析では、コンピューター上で筐体のモデルを作成し、荷重や振動を加えた際の変形や応力をシミュレーションします。これにより、強度不足な箇所を特定し、補強を加えたり、形状を変更したりすることで、強度と軽量化の両立を図ります。

5.2 放熱設計:電子機器のパフォーマンスを最大限に発揮させる

電子機器から発生する熱は、製品の性能や寿命に悪影響を及ぼす可能性があります。アルミ筐体は、アルミニウムの高い熱伝導性を活かして、筐体内部の熱を効率的に外部へ放熱することができます。しかし、筐体の形状や内部の部品配置によっては、放熱効率が低下してしまう可能性もあります。

そこで、放熱シミュレーションを用いた放熱設計が重要になります。放熱シミュレーションでは、筐体内部の空気の流れや温度分布を解析することで、放熱効率の高い筐体構造や部品配置を検討します。具体的には、放熱フィンを設けたり、筐体にスリットを設けたりするなど、様々な方法で放熱性を高めます。

5.3 電磁波対策設計:ノイズの影響を最小限に抑える

電子機器から発生する電磁波は、他の電子機器の動作に悪影響を及ぼす可能性があります。これを電磁ノイズと呼びます。アルミ筐体は、アルミニウムの電磁波シールド効果によって、電磁ノイズの発生を抑えたり、外部からの電磁ノイズの影響を受けにくくしたりすることができます。

電磁波対策設計では、製品から発生する電磁ノイズのレベルを測定し、基準値以下に抑えるための対策を講じます。具体的には、筐体の接合部に電磁波シールド材を使用したり、筐体内部に電磁波吸収材を配置したりするなど、様々な方法があります。

5.4 デザイン性:製品の顔となる筐体の意匠設計

アルミ筐体は、製品の外観を大きく左右する要素であり、製品のブランドイメージを伝える役割も担っています。そのため、機能性だけでなく、デザイン性も重視した設計が求められます。

デザイン性の高いアルミ筐体を実現するためには、形状、色、質感など、様々な要素を考慮する必要があります。例えば、曲面を多用した有機的な形状にしたり、アルマイト処理によって多彩な色を表現したり、表面にヘアライン加工を施すことで高級感を演出したりするなど、様々な方法があります。

5.5 製造性:コストと品質を両立させるための設計

アルミ筐体の設計は、製造工程を考慮した上で行う必要があります。設計段階で製造上の制約を考慮しないと、製造コストの増加や品質の低下に繋がりかねません。

例えば、複雑な形状の筐体を設計すると、製造工程が複雑になり、コストが増加する可能性があります。また、筐体の板厚が薄すぎると、製造時に変形しやすく、品質が低下する可能性があります。

6. アルミ筐体の製造:高精度な加工技術と品質管理

アルミ筐体の製造には、高い精度と品質が求められます。ここでは、アルミ筐体製造の主な工程とその特徴について解説します。

6.1 材料の選定:用途や要求性能に応じた最適な選択

アルミ筐体の材料選定においては、筐体の使用環境や予算、要求される強度や耐久性などを総合的に考慮することが、適切な材料選択を行うためのポイントです。アルミはその軽量性、耐食性、加工性の高さから、幅広い用途で使用されていますが、各合金の特性に応じた設計上の工夫が求められます。適切な材料選びを行うことで、板金筐体の品質向上とコスト削減を両立させることが可能です。

A1050

純アルミに近い材料で、耐食性と加工性に優れています。軽量でコストも抑えられるため、強度をそれほど求めない部品に最適です。ただし、強度が低いため、設計時に補強が必要になることがあります。

A1100

純度99%以上のアルミ合金で、耐食性と加工性に非常に優れています。特に、美観を重視する用途や軽量構造部品に広く使用されます。溶接性も高いため、溶接を伴う設計にも適しています。

A2017

高強度なアルミ合金で、機械的負荷がかかる構造部品に適しています。特に、航空機や自動車部品など、強度が求められる場面で活躍します。しかし、耐食性がやや低いため、表面処理が推奨される場合があります。

A5052

優れた耐食性と中程度の強度を持つ合金で、板金筐体の構造材料としてよく使用されます。溶接や加工が容易で、強度とコストのバランスが取れた選択肢として人気です。

A6061

高い強度と優れた耐食性を兼ね備えた万能型アルミ合金です。構造部品やフレームなど、重量を抑えつつ強度を必要とする部品に適しています。リブや補強を設計に取り入れることで、さらに強度を高めることが可能です。

7.2 切断加工:高精度な切断技術で設計図面を形にする

材料の選定後、設計図面に基づいてアルミ板を必要な大きさに切断します。切断には、シャーリング加工、レーザー加工、ウォータージェット加工など、様々な方法があります。

シャーリング加工

刃型と受け型でアルミ板を挟み込み、せん断力で切断する方法です。比較的低コストで加工できますが、複雑な形状の切断は苦手です。

レーザー加工

レーザー光線の熱でアルミ板を溶かしながら切断する方法です。高精度な加工が可能で、複雑な形状の切断にも対応できます。

ウォータージェット加工

超高圧で噴射した水でアルミ板を切断する方法です。熱影響が少なく、材料の変形を抑えることができます。

6.3 曲げ加工:正確な角度と滑らかな曲げ面を実現

切断加工後、プレスブレーキなどの専用機を用いてアルミ板を曲げ、筐体の形状を形成します。曲げ加工では、材料のばね性に打ち勝って塑性変形させる必要があるため、材料の特性に合わせた加工条件の設定が重要となります。

参考として、精密筐体・フレームファクトリーがこれまでに設計者様、開発技術者様に提案した提案事例を纏めました(VA・VE事例はこちらから)曲げ加工におけるVE事例も公開しています。これらの事例を参考に、最適な曲げ加工を実現することで、高品質なアルミ筐体を製造することができます。

6.4 溶接加工:筐体の強度と気密性を確保

複数の部品を組み合わせる場合、溶接加工によって接合します。アルミ筐体の溶接には、アルゴン溶接、レーザー溶接、スポット溶接など、様々な方法があります。

溶接方法によって、仕上がりの強度や外観が異なります。筐体のなかで溶接箇所が目立たないように配慮したり、溶接による歪みを最小限に抑えるなど、高度な技術が必要とされます。

7. アルミ筐体の表面処理:美観と機能性を追求する

アルミ筐体の表面処理は、製品の外観を大きく左右するだけでなく、耐食性、耐摩耗性、耐光性などを向上させるなど、様々な機能を付加することができます。

7.1 アルマイト処理:多彩な発色でデザイン性を高める

アルマイト処理は、アルミ筐体の表面に人工的に酸化皮膜を形成させる表面処理です。酸化皮膜は非常に硬く、耐食性、耐摩耗性に優れています。また、アルマイト処理では、染料によって様々な色を表現することができるため、デザイン性を高める目的でも使用されています。

アルマイト処理を施した表面は、傷つきやすいという側面もあります。傷を防ぐためには、保護フィルム貼り材を使用するなどの対策が有効です。

7.2 塗装:豊富なカラーバリエーションと質感

塗装は、アルミ筐体の表面に塗料を塗布する表面処理です。アルマイト処理と比較して、さらに豊富なカラーバリエーションから選択することができます。また、光沢のある仕上がり、マットな仕上がりなど、様々な質感を選択することも可能です。

7.3 印刷:ロゴや文字を鮮明に表現

印刷は、アルミ筐体の表面にインクを定着させることで、ロゴや文字、図形などを表現する表面処理です。シルク印刷、パッド印刷、インクジェット印刷など、様々な印刷方法があります。

8. まとめ

本ページでは、アルミ筐体の基礎知識について、設計、製造、表面処理といった観点から解説しました。アルミ筐体は、軽量性、強度、耐食性、加工性、放熱性、電磁波シールド性など、多くの優れた特性を兼ね備えており、製品の性能、信頼性、そしてデザイン性を向上させる上で、非常に重要な役割を担っています。

近年では、5G通信、IoT、AIなどの技術革新により、電子機器の小型化、高性能化、そして多機能化がさらに進んでいます。このような中、アルミ筐体には、従来以上に高いレベルでの設計、製造、そして表面処理技術が求められています。

精密筐体・フレームファクトリーを運営する佐藤電機製作所は、2m×1mのハイグレードな筐体・フレームを始めとする、ハイグレードな精密板金の短納期製作を得意としています。

西関東エリア屈指の高精度加工設備を強みとしており、スピードと品質には自信があります。 試作品から量産まで一貫生産体制で対応しているため短納期のものづくりが可能であり、設計段階からのVA・VE提案も可能です。 まずはお気軽にご相談、お問い合わせください。

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