筐体設計と板金加工技術
現代社会において、電子機器や産業機械は必要不可欠な存在となっています。
スマートフォン、パソコン、家電製品、自動車、航空機、工場設備など、あらゆる分野で高度な機能を持つ製品が開発され、私たちの生活をより便利で豊かなものへと導いています。これらの製品においては、多数の電子機器やメカニズムを必要としますが、筐体はそれらの製品の性能や信頼性を左右する重要な役割を担っています。
例えばスマートフォンを例にとれば、全国津々浦々まで設置された携帯基地局がネットワークインフラを支えています。そして基地局の基盤、通信機能は板金を用いて作られた筐体内部に収まっています。このように筐体は、内部の電子部品や機構部品を外部環境から保護するだけでなく、製品の外観デザイン、放熱性、電磁波対策など、様々な機能を兼ね備えている必要があるため、高度な設計技術と、実際にモノとして作り出すための板金加工技術が必要です。
筐体設計とは
筐体設計とは、製品の用途、性能、デザイン、コストなどを考慮し、最適な形状、構造、材質、加工方法などを決定するプロセスです。筐体設計には、製品の機能を最大限に引き出すための様々な要素を考慮する必要があります。例えば、製品の強度を保つための構造設計、防水・防塵性能を確保するためのシーリング設計、内部の電子部品を冷却するための放熱設計、電磁波によるノイズを防ぐためのEMC設計など、多岐にわたる知識と経験が求められます。
板金加工技術は、金属板を切断、曲げ、穴あけ、溶接などの加工を施すことで、複雑な形状の部品を製作する技術です。特に、近年では、レーザー加工機、NCベンディングマシン、溶接ロボットなどの自動化設備の進化により、高精度、高効率、低コストな板金加工が可能となり、筐体設計の自由度が飛躍的に向上しています。
板金加工は、筐体設計で決定された形状や構造を実際に形にするための重要なプロセスであり、設計意図を正確に理解し、高品質な加工を行うためには、高度な技術力とノウハウが必要です。また設計者にとっては、自社生産・外部委託生産を問わず、板金加工技術を知悉することが、製品の市場競争力を高める上でより重要となっています。加工技術を知らなければ、QCDに優れた製品を設計することはできないからです。
このコラムでは、筐体設計と板金加工技術の基礎知識から、最新の技術動向、そして未来への展望まで、幅広く解説していきます。筐体設計の初心者の方、設計知識を深めたい方、板金加工の基礎を理解したい方、そして、より良い製品開発に携わるすべての方にとって、有益な情報となるように、分かりやすく解説することを目指します。
具体的には、以下の内容を解説していきます。
- 筐体の基礎知識: 筐体の定義、役割、種類、設計に必要な強度計算、防水・防塵設計、放熱設計、EMC対策など
- 板金加工技術の基礎: 板金加工の定義、工程、種類、メリット・デメリット、各加工方法の注意点、精度、コストなど
- 筐体設計における板金加工の重要性: 具体的な事例を交えながら解説
- 筐体設計と板金加工の最新技術動向: 自動化技術、AI、IoTなどを活用した最新技術
筐体設計の基本
筐体とは
筐体とは、電子機器や産業機械などの内部部品を外部環境から保護するための箱型の構造物です。製品の外観を構成するだけでなく、内部部品を衝撃や振動、埃、水などから保護し、正常な動作を維持する役割を担います。筐体は、製品の信頼性、安全性、耐久性を確保する上で非常に重要な要素です。
筐体設計は、製品の用途、性能、デザイン、コストなどを考慮し、最適な形状、構造、材質、加工方法などを決定するプロセスです。筐体設計には、製品の機能を最大限に引き出すための様々な要素を考慮する必要があります。
筐体の役割
筐体の役割は多岐に渡り、製品の機能や用途によって求められる性能も異なります。
主な役割は以下の通りです。
① 内部部品の保護機能
筐体は、内部の電子部品や機構部品を、以下のような外部環境から保護します。
- 物理的衝撃・振動
落下や衝撃から内部部品を保護します。 - 埃・異物
埃や異物の侵入を防ぎ、部品の故障や動作不良を防止します。 - 水・湿気
水や湿気による腐食やショートを防ぎます。 - 電磁波
外部からの電磁波や、内部部品から発生する電磁波の影響を抑制します。 - 熱
内部部品の発熱による故障や性能低下を防ぎます。
② 放熱機能
電子部品は動作時に熱を発生するため、筐体には放熱性を考慮した設計が必要です。筐体の材質、形状、表面処理などを工夫することで、効率的に熱を放散し、内部部品の温度上昇を抑えることが可能です。筐体設計において、放熱性を高めるための工夫は非常に重要です。
- 放熱用の穴やスリットを設ける
筐体に放熱用の穴やスリットを設けることで、筐体内部の熱を外部に放出することができます。 - 放熱フィンを取り付ける
放熱フィンを取り付けることで、筐体表面の表面積を増やし、放熱効果を高めることができます。 - 放熱シートや放熱グリスを使用する
内部部品と筐体の間に放熱シートや放熱グリスを挟むことで、熱伝導率を高め、放熱効果を高めることができます。
③ 電磁波対策 (EMC)
電子機器は、外部からの電磁波の影響を受けたり、自ら電磁波を発生したりすることがあります。筐体は、電磁波のノイズを遮断するシールド効果を持ち、EMC対策に重要な役割を果たします。
- 金属筐体を使用する: 金属は電磁波を遮断する効果があるため、金属筐体を使用することで、EMC対策を効果的に行うことができます。
- 電磁波シールド材を使用する: 筐体内部に電磁波シールド材を貼り付けることで、電磁波のノイズを遮断することができます。
④ 操作性・安全性
筐体は、ユーザーが安全かつ快適に操作できるように、ボタン、スイッチ、表示部の配置などを考慮して設計しなければいけません。内部機器から設計を進めることがほとんどですが、ある程度、外装である筐体上の配置を予め考えておくと、後からの設計変更が少なくて済みます。
- ボタンやスイッチの配置
ボタンやスイッチは、操作しやすい位置に配置する必要があります。また、誤操作を防ぐために、ボタンの形状や大きさを工夫することも重要です。 - 表示部の配置
表示部は、見やすい位置に配置する必要があります。また、周囲の明るさによって見え方が変わるため、輝度やコントラストを調整できる機能を備えていることが望ましいです。
⑤ デザイン性
筐体は製品の外観を構成するため、デザイン性も考慮しなければなりません。製品のブランドイメージやコンセプトに合わせた形状、色、仕上げなど、用途と予算に応じて適切に選定・設定を行いましょう。
- 形状
筐体の形状は、製品の用途やイメージに合わせて設計します。R形状を多用するとユニーク、目立つ形状にすることができますが、コスト高にもなり得ます。 - 色
筐体の色は、製品の用途やイメージに合わせて選択されますが、アルミやステンレスの素地を用いるか、塗装等で着色する等の選択肢があります。 - 仕上げ
筐体の仕上げは、製品の質感や高級感を演出するために重要となります。塗装やコーティング等の多数の選択肢があります。
筐体の種類
筐体は、素材、構造、用途などによって様々な種類に分類されます。
① 素材による分類
筐体に使用される素材は、製品の用途や要求性能によって異なります。
主な素材とその特徴は以下の通りです。
金属筐体
鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属材料を用いた筐体です。強度、耐久性、放熱性に優れており、産業機械や電子機器など幅広い用途に使用されます。板金加工技術によって複雑な形状に加工できることも利点です。
鉄
安価で加工性が良いですが、錆びやすいという欠点があります。
ステンレス
錆びにくく、耐食性に優れていますが、鉄に比べて高価です。
アルミニウム
軽量で放熱性に優れていますが、鉄やステンレスに比べて強度が劣ります。
樹脂筐体
ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂などの樹脂材料を用いた筐体です。軽量、加工性、絶縁性に優れており、家電製品や小型電子機器などに多く使用されます。○
ABS樹脂
強度と耐衝撃性に優れており、家電製品の筐体などに広く使用されています。
ポリカーボネート(PC)樹脂
透明性が高く、耐衝撃性に優れているため、スマートフォンなどの筐体などに使用されています。
その他
木材、セラミックなど、用途に合わせて様々な素材が使用されます。
② 構造による分類
筐体の構造は、製品の大きさや形状、強度、製造コストなどを考慮して決定します。内部に収める機器や設置場所によっても適切な構造は異なるため、よく吟味することが必要です。
フレーム構造
フレームを骨組みとして、パネルを取り付ける構造です。強度とメンテナンス性に優れており、大型の筐体に適しています。
モノコック構造
外板自体が強度を負担する構造です。軽量化に有利ですが、加工が複雑になり、製造コストが高くなる傾向があります。
その他
折りたたみ構造、引き出し構造など、用途に合わせて様々な構造が採用されます。
③ 用途による分類
筐体は、用途に合わせて様々な種類があります。
産業機械用筐体
工場などで使用される産業機械の保護や制御盤などを収納するための筐体です。堅牢性や耐久性が求められます。
電子機器用筐体
通信機器、パソコン、スマートフォン、家電製品などの電子機器を収納するための筐体です。放熱性や電磁波対策などが重要となります。
医療機器用筐体
医療機器を収納するための筐体です。衛生面や安全性の基準が厳しく定められています。
その他筐体
車載用筐体、航空機用筐体など、様々な用途に特化した筐体が存在します。
筐体設計に必要な知識
筐体設計を行うには、様々な分野の知識が必要です。筐体設計は、製品の設計と密接に関係しており、製品の機能や性能を最大限に発揮できるよう、設計する必要があります。
① 強度計算
筐体は、製品の使用環境や用途に応じた強度を確保する必要があります。外部からの衝撃や振動に耐えられるように、材料力学に基づいた強度計算を行い、最適な構造や板厚を決定します。
静的強度
静止した状態での荷重に対する強度
動的強度
振動や衝撃などの動的な荷重に対する強度
疲労強度
繰り返し荷重に対する強度
② 防水・防塵設計
屋外や水気のある環境で使用される筐体には、防水・防塵設計が求められます。パッキンやシーリング材などを用いて、筐体内部への水や埃の侵入を防ぎます。
IP等級
筐体の防水・防塵性能は、IP等級によって表されます。
パッキン
パッキンは、筐体の隙間を塞ぎ、水や埃の侵入を防ぎます。
シーリング
シーリングは、筐体の接合部を塞ぎ、水や埃の侵入を防ぎます。
③ 放熱設計
電子部品を搭載する筐体では、放熱設計が重要です。筐体の材質、形状、表面処理などを工夫することで、効率的な放熱を行い、内部部品の温度上昇を抑制します。
熱伝導
熱伝導は、物質を伝わって熱が移動する現象です。
熱伝達
熱伝達は、物質の移動を伴って熱が移動する現象です。
熱放射
熱放射は、電磁波として熱が伝わる現象です。
④ EMC対策
電子機器の筐体は、電磁波ノイズの発生源となる場合や、外部からの電磁波の影響を受ける場合があります。筐体に金属材料を使用したり、電磁波シールド材を施したりすることで、EMC対策を行います。
電磁波ノイズ
電磁波ノイズは、電子機器の動作に影響を与えるノイズです。
電磁波シールド
電磁波シールドは、電磁波を遮断する技術です。
⑤ 材料知識
筐体に使用する材料は、強度、重量、コスト、加工性などを考慮して選択する必要があります。金属材料、樹脂材料、複合材料など、様々な材料の特性を理解しておくことが重要です。
金属材料
金属材料は、強度が高く、加工性に優れています。
樹脂材料
樹脂材料は、軽量で、絶縁性に優れています。
複合材料
複合材料は、複数の材料を組み合わせることで、それぞれの材料の利点を活かした材料です。例えばカーボンファイバーやコンポジットパネル等が該当します。
⑥ 加工技術
板金加工、切削加工、射出成形など、筐体の製造に用いられる様々な加工技術について、その特性やコストを理解しておく必要があります。
板金加工
板金加工は、金属板を切断、曲げ、穴あけなどの加工を施すことで、様々な形状の部品を製作する加工方法です。筐体の加工技術としてはもっとも一般的で、加工性・生産性がよく、頻繁に用いられます。
切削加工
切削加工は、工具を用いて工作物から不要な部分を削り取り、必要な形状に加工する加工方法です。筐体自体を切削加工で作ることは、スマートフォン等の小型製品を除いて、コスト高になるためあまり見られませんが、高圧が掛かる機器筐体等は切削加工による削り出しで製作することなどがあります。
射出成形
射出成形は、加熱溶融したプラスチックを金型に射出し、冷却固化させることで、成形品を得る加工方法です。小型の電子機器筐体等によく用いられます。
⑦ コスト意識
筐体設計は、製品のコストに大きく影響します。材料費、加工費、組立費などを考慮し、コストパフォーマンスの高い設計を行うことが重要です。
材料費
筐体に使用する材料によって、コストが大きく異なります。
加工費
筐体の形状や加工方法によって、加工費が異なります。
組立費
筐体の構造や部品点数によって、組立費が異なります。
筐体設計のポイント
筐体設計を行う際には、以下のポイントを考慮することで、より高品質な筐体を設計することができます。
① 製品の用途・使用環境を考慮する
筐体は、製品の使用環境や用途に応じて、必要な強度、防水・防塵性能、放熱性などを考慮して設計する必要があります。
使用温度
製品の使用温度範囲を考慮する必要があります。
振動
製品の使用環境における振動の程度を考慮する必要があります。
薬品
製品の使用環境における薬品への暴露を考慮する必要があります。
② 内部部品の配置を最適化する
筐体設計は、内部部品の配置を最適化することで、スペース効率を高め、配線や組立を容易にすることができます。
部品の配置
部品の配置は、配線や組立のしやすさを考慮して決定する必要があります。
配線
配線は、ノイズの影響を受けにくいように、最短距離で配線する必要があります。
組立性
筐体は、組立が容易な構造にする必要があります。
③ メンテナンス性を考慮する
筐体は、内部部品の点検や交換などのメンテナンス性を考慮して設計する必要があります。
点検口
内部部品を点検するための点検口を設ける必要があります。
部品の交換
部品の交換が容易な構造にする必要があります。
④ 製造コストを意識する
筐体設計は、製品の製造コストに大きく影響します。材料費、加工費、組立費などを考慮し、コストパフォーマンスの高い設計を行うことが重要です。
標準部品の活用
標準部品を積極的に活用することで、コストダウンを図ることができます。
加工の簡素化
加工を簡素化することで、加工費を削減することができます。
組立の自動化
組立を自動化することで、組立費を削減することができます。
⑤ 最新の技術動向を把握する
筐体設計の分野では、常に新しい材料や加工技術が開発されています。常に最新の情報収集を行い、設計に反映させることが重要です。
新素材
新素材の採用によって、より高性能な筐体を設計することができる可能性があります。
新加工技術
新加工技術の開発によって、より複雑な形状の筐体を、より低コストで製造することができる可能性があります。
筐体設計は、製品の性能、信頼性、安全性、デザインなどを左右する重要な要素です。筐体設計の基本を理解し、適切な設計を行うことで、高品質な製品開発に貢献することができます。
板金加工技術の基礎
板金加工は、金属板を切断、曲げ、溶接などの加工を施し、様々な形状の部品を製作する技術です。この技術は、自動車、家電製品、建築物など、幅広い分野で利用されています。ここでは、板金加工技術の基礎をより詳細に解説し、理解を深めていきます。
図面作成の基礎
板金加工の第一歩は、製作する部品の設計図を作成することです。図面は、加工者へ正確な情報を伝えるための重要なツールであり、その作成には以下の点に特に注意する必要があります。
外寸法基準の図面作成
図面は、原則として完成品の外寸法を基準に作成します。これは、板金加工が素材となる板を切断する工程から始まるためです。内寸法を基準に設計してしまうと、切断後の寸法がずれてしまい、最終的な製品の精度に影響を及ぼす可能性があります。 内寸法の精度が求められる場合は、「内寸」と明記し、どの寸法を検査基準とするかを明確に指示する必要があります。
抜き加工 – 形状の切り出しと精度の確保 –
抜き加工は、プレス機を用いて、金型に沿って板金を打ち抜き、目的の形状に切り出す加工です。この工程は、部品の外観と精度を左右する重要な工程であり、以下の点に注意が必要です。
クリアランスの適正化
パンチ(凸型)とダイ(凹型)からなる金型を用いる抜き加工では、その隙間であるクリアランスが重要となります。クリアランスが大きすぎると、切断面が粗くなり、バリ**が発生しやすくなります。反対に、小さすぎると、**抜き荷重が大きくなり、金型の寿命を縮めたり、加工機の能力を超えてしまう可能性があります。
せん断幅の適正化
ブランク材(抜き加工前の素材)を切断する際には、せん断幅を適切に設定する必要があります。せん断幅が小さすぎると、切断時に材料がくびれたり、ねじれたりしやすくなり、ブランク材の品質が低下します。また、金型への負担も大きくなり、摩耗を早める原因となります。
抜き荷重の制御
抜き加工に必要な荷重は、材料の材質、板厚、抜き形状、抜き面積などによって変化します。 抜き荷重が大きすぎると、加工機への負担が大きくなり、最悪の場合、金型や加工機が破損する恐れがあります。
バーリング加工における割れ対策
バーリング加工は、板金に円形の突起を形成する加工です。 この加工を行う場合、事前に下穴をあける必要がありますが、その打ち抜き方向を誤ると、バーリング部に割れが発生する可能性があります。割れを防止するためには、バリ面側から加工を行うようにします。
曲げ加工 – 三次元形状の創出と歪みへの配慮 –
曲げ加工は、板金を折り曲げ、立体的な形状を形成する加工です。この工程では、目的の形状に正確に曲げるための計算や、加工に伴う歪みを最小限に抑えるための工夫が求められます。
曲げ圧力の算出
曲げ加工に必要な力は、曲げ圧力と呼ばれ、材料の材質、板厚、曲げ角度、曲げ長さ、金型の形状など様々な要素によって決まります。適切な曲げ圧力を設定することで、歪みや割れのない高品質な曲げ加工が可能となります。
立ち上がり寸法とV幅の関係
立ち上がり寸法が短い製品を曲げ加工する場合、V溝の幅(V巾)が適切でないと、曲げ加工ができない場合があります。
バネ材の曲げ方向
バネ材を曲げ加工する場合、曲げ方向に注意する必要があります。バネ材は、繊維方向に沿って曲げると割れが発生しやすいため、繊維方向と交差する方向に曲げることが重要です。
深曲げ加工における金型選定
深曲げ加工のように、深い形状を曲げ加工する場合、通常の金型では加工が困難になります。コの字型の深曲げ加工では、グースネックと呼ばれる特殊な形状のパンチを用いることで、深曲げ加工が可能になります。
最小曲げ寸法の遵守
L曲げやZ曲げなど、複雑な形状を曲げ加工する場合、最小曲げ寸法を下回ると、曲げ加工が困難になるか、品質が低下する可能性があります。 最小曲げ寸法は、材料の特性や板厚、曲げ角度などによって異なるため、事前に確認が必要です。
曲げキズ対策
曲げ加工を行うと、金型との接触面に曲げキズが発生することがあります。曲げキズを防止するためには、金型にキズ防止シートを取り付けるなどの対策が有効です。
段曲げ加工における金型選定
高さの低い段曲げ加工を行う場合、通常の金型では加工が難しい場合があります。このような場合は、段曲げ金型と呼ばれる特殊な金型を用いることで、高精度な加工が可能になります。
曲げ付近の穴変形対策
曲げ加工を行う際に、曲げ線付近に穴があると、曲げの応力によって穴が変形してしまうことがあります。穴変形を防止するためには、曲げ加工前にあらかじめ逃がし穴(角穴)を設けるなどの対策が有効です。
曲げ付近のバーリング変形対策
曲げ加工を行う際に、曲げ線付近にバーリングがあると、金型と干渉して変形してしまうことがあります。バーリング変形を防止するためには、金型に隙間を設けるなどの工夫が必要です。
溶接加工 – 部品の接合と強度の確保 –
溶接加工は、金属を局所的に溶融して接合する加工です。板金加工では、部品同士を接合するため、あるいは補強のために溶接が用いられます。
溶接記号の理解
溶接を行う際には、溶接記号を用いて、溶接方法、溶接位置、溶接深さなどを指示します。溶接記号を正しく理解し、指示通りに溶接を行うことが重要です。
溶接棒の選定
溶接棒は、母材となる板金の材質に合わせたものを選択する必要があります。異なる材質の溶接棒を使用すると、溶接部の強度が低下したり、腐食が発生しやすくなるなどの問題が生じます。
溶接欠陥の発生原因と対策
溶接加工を行う際には、様々な溶接欠陥が発生する可能性があります。溶接欠陥には、オーバーラップ、アンダーカット、溶け込み不良、スラグ巻き込みなどがあり、それぞれ発生原因と対策方法が異なります。
半抜き加工による位置決め
複数の板金を溶接する場合、位置決めが重要となります。溶接前に正確に位置決めを行うために、半抜き加工を施し、位置決め用の突起を設ける方法があります。
板金加工は、比較的低コストで様々な形状の部品を製作できることから、幅広い分野で利用されています。しかし、高品質な製品を製作するためには、材料の特性、加工方法、金型、加工機など、様々な知識と経験が必要です。
筐体設計における板金加工の重要性
板金加工は、筐体設計において設計の自由度、軽量化、強度、コスト効率、表面処理、VA/VE提案といった点で重要な役割を果たしています。これらの要素をさらに掘り下げ、より詳細な解説を提供します。
設計の自由度の高さ:複雑な形状と多様なデザインを実現
板金加工では、先に触れたように切断、曲げ、溶接、打ち抜きなどの加工技術を組み合わせることで、複雑な形状の筐体を製作できます。これらの加工技術を組み合わせることで、筐体の設計自由度が大幅に向上し、製品の機能性やデザイン性を追求した筐体設計が可能となります。
軽量化: 輸送コスト削減、持ち運びやすさ、設置作業の効率化
板金加工では、アルミニウムや鉄などの比較的軽量な金属を材料として使用し、薄い板状に加工するため、筐体全体の重量を抑えることができます。 軽量化は、以下のような利点に繋がります。
輸送コストの削減
製品が軽くなることで、輸送にかかる燃料費や輸送費を削減できます。
持ち運びやすさの向上
製品が軽くなることで、持ち運びや移動が容易になり、(持ち運ぶ機器筐体の場合は)作業効率や安全性の向上に繋がります。
設置作業の効率化
製品が軽くなることで、設置作業が容易になり、工期短縮や人件費削減に繋がります。
強度と耐久性: リブ構造や補強材で強固な筐体を実現
板金加工では、薄い金属板を使用しますが、曲げ加工や溶接加工、リブ構造の採用などにより、筐体に必要な強度と耐久性を確保できます。
曲げ加工による強度向上
板金を曲げることで、曲げ部に力が分散され、筐体の強度を高める効果があります。
溶接による強度向上
溶接によって部品同士を強固に接合することで、筐体全体の強度を向上させることができます。
リブ構造
板金の表面に突起状のリブを設けることで、筐体の剛性を高め、変形や歪みを抑制することができます。
補強材
筐体の強度が不足する箇所に、アングル材やブラケットなどの補強材を追加することで、強度を補強できます。
これらの工夫を凝らすことで、板金製の筐体であっても十分な強度と耐久性を持たせることが可能です。
コスト効率: 金型を用いたプレス加工で大量生産にも対応
板金加工は、金型を用いたプレス加工など、大量生産に適した加工方法であるため、コスト効率に優れています。
金型による効率化
一度金型を作成すれば、同じ形状の部品を効率的に大量生産できるため、単価を抑えることが可能です。
自動化
プレス加工やレーザー切断などは自動化が容易なため、人件費を削減し、生産性を向上させることができます。
材料のロスが少ない
切削加工などと比べて、材料のロスが少なく、材料費を抑えることができます。
表面処理: 塗装、メッキ、ヘアライン加工で耐食性や意匠性向上
板金加工では、塗装、メッキ、ヘアライン加工など、様々な表面処理を施すことができます。 これにより、以下のような効果が期待できます。
耐食性向上
メッキや塗装を施すことで、筐体の表面を腐食から保護し、耐用年数を延ばすことができます。
耐摩耗性向上
メッキや塗装の種類によっては、筐体の表面硬度を高め、傷や摩耗に強くすることができます。
意匠性向上
塗装やヘアライン加工などにより、筐体の外観を美しく仕上げ、製品の質感を高めることができます。
VA/VE提案: 顧客の要望を満たしつつコストダウン、品質向上
板金加工メーカーは、豊富な経験と実績に基づいたVA/VE提案を行うことができます。 筐体設計においては、以下のようなVA/VE提案が考えられます。
材料の変更
コストや強度などを考慮し、最適な材料を提案します。
加工方法の変更
より効率的な加工方法を提案することで、コストダウンや納期短縮を目指します。
設計の簡素化
部品点数を減らしたり、形状を簡素化することで、コストダウンや組立性の向上を図ります。
板金加工は、筐体設計において多様なメリットを提供し、製品の機能性、信頼性、コスト効率に大きく貢献します。 上記で解説した要素を踏まえ、板金加工技術を最大限に活用することで、高品質でコスト効率の高い筐体を実現することができます。
筐体設計と板金加工における技術革新
3D CAD/CAM とシミュレーション:設計から加工までのシームレスな連携
3D CAD ソフトウェアの進化: 従来の 2D 図面からの脱却が進み、SolidWorks、CATIA、Fusion 360 などの高機能な 3D CAD ソフトウェアが広く普及しています。 これらのツールは、複雑な形状の筐体設計を容易にするだけでなく、アセンブリの検証、干渉チェック、動作シミュレーションなども可能にします。
CAM ソフトウェアとの統合
3D CAD データを直接利用して、CAM ソフトウェアが自動的に加工パスを生成します。 これにより、加工時間の短縮、精度の向上、人為的ミスの削減などが実現します。
シミュレーションの重要性
ANSYS や Abaqus などの有限要素解析 (FEA) ソフトウェアを用いたシミュレーションは、筐体の強度、剛性、熱伝達、振動特性などを設計段階で評価することを可能にします。 これにより、試作品製作の回数を減らし、開発期間の短縮とコスト削減に貢献します。
利点
- 設計と加工の連携強化による効率向上
- 設計エラーの早期発見による手戻り削減
- 高度な設計最適化による製品性能の向上
課題
- 高度なソフトウェアの操作習得が必要
- シミュレーションの精度が現実と異なる場合もある
- ソフトウェアや設備導入コストがかかる
レーザー加工技術:高精度・高効率を実現するキーテクノロジー
ファイバーレーザーの優位性: ファイバーレーザーは、従来の CO2 レーザーに比べて、ビーム品質が高く、エネルギー効率も優れています。 そのため、より高速かつ高精度な切断・溶接が可能となり、特に薄板金属の加工に最適です。
レーザー溶接のメリット
レーザー溶接は、熱投入量が少なく、溶接部の歪みが小さいという特徴があります。 そのため、精密部品や熱変形を嫌う材料の溶接に適しており、筐体の小型化にも貢献します。
適用範囲の拡大
レーザー加工技術は、切断や溶接だけでなく、マーキング、穴あけ、彫刻など、様々な用途に利用されています。 また、金属以外の材料への適用も進んでおり、適用範囲はますます広がっています。
利点
- 高精度・高品質な加工による製品の高性能化
- 高速加工による生産性向上
- 熱影響の抑制による歪み削減
- 多様な材料への適用可能性
課題
- 設備導入コストが高い
- 厚板の加工には不向きな場合がある
- 熟練作業者不足
自動化とロボット技術:人材不足解消と生産性向上への期待
自動化システムの進化
板金加工の分野では、NC (数値制御) 技術の進化により、レーザー加工機、プレスブレーキ、パンチングマシンなどの加工機が高度に自動化されています。 これらの自動化システムは、加工プログラムに基づいて自動運転するため、人為的ミスの削減、加工品質の安定化、生産性の向上が期待できます。
ロボット技術の進展
溶接や組立などの工程では、産業用ロボットの導入が進んでいます。 ロボットは、プログラムされた動作を正確に繰り返し実行できるため、作業者の負担軽減、安全性向上、品質の安定化に貢献します。
利点
- 人材不足の解消
- 生産性の向上
- 品質の安定化
- 作業環境の改善
課題
- 設備導入コストが高い
- 自動化システムの設計・構築・運用には専門知識が必要
高機能材料:軽量化、高強度化、意匠性向上を実現する新素材
高張力鋼板 (ハイテン) の採用
従来の鋼板よりも強度が高いため、筐体の薄肉化が可能となり、軽量化と強度の両立に貢献します。 自動車業界でのプレス用途を中心に採用が進んでいますが、加工には専用の設備や技術が必要となる場合があります。筐体としては一般的ではありませんが、特殊用途で使用されるケースがあるようです。
アルミ複合板の多様性
軽量でありながら、高い剛性と断熱性を備えています。 また、表面に様々な処理を施すことができるため、意匠性に優れた筐体を実現できます。 建材や看板などに広く利用されており、筐体材料としても注目されています。
利点
- 軽量化による輸送コスト削減
- 高強度化による製品の耐久性向上
- 意匠性向上による製品の付加価値向上
課題
- 高機能材料は、従来材料に比べて高価な場合がある
- 加工には、専用の設備や技術が必要となる場合がある
デジタル化:設計・製造プロセス全体の効率化と情報共有
オンライン見積もりシステムの普及: meviy のように、3D データをアップロードするだけで自動的に見積もりが算出されるオンラインシステムが登場しています。 これにより、見積もり作成の手間を省き、迅速な価格提示が可能となります。
生産管理システム (MES/ERP) との連携: 受発注、生産計画、工程管理、在庫管理、出荷管理などを一元管理するシステムが導入され、企業全体の業務効率化が進んでいます。
利点
- 業務効率化とリードタイムの短縮
- 正確な情報共有によるミスや手戻りの削減
- データ分析に基づいた生産計画の最適化
課題
- システム導入・運用コストがかかる
- 既存システムとの統合が難しい場合がある
- セキュリティ対策の強化が必要となる
筐体設計と板金加工の分野では、上記の技術革新が組み合わさり、従来よりも高精度、高品質、短納期、低コストな製品製造が可能となっています。 設計者にはこれらの技術を効果的に活用することで、製品の付加価値を高め、競争優位性を確保することが求められます。